大乗仏教という言葉を、聞いたことはあるでしょうか。仏教とは文字通り、仏の教えを意味しますが、その中心は「私たち人間全てが悟りを開き、輪廻転生から離脱して仏となる」という教えです。もともとは古代インドのガンジス川中流地方にある、ブッダガーヤという土地で生まれた釈迦が開祖の宗教と言われています。仏陀とは「悟りを開いた人」「真理を見つけた人」の意味で、この尊称が「釈迦牟尼仏」です。これらの言葉は、古代インドで使用されたサンスクリット語がベースとなっており、「牟尼」とはサンスクリット語で「聖者」を表します。このように、現代でも伝えられているありがたい教えなのです。
釈迦がお亡くなりになったことを、入滅と言います。入滅後の紀元前3世紀頃になると、この仏教は2つに分裂することになりました。ひとつは、戒律を厳しく守り、自らの悟りを開くことに専念する「上座部仏教」、そしてもうひとつが釈迦のありがたい教えをより多くの人々に広めようとする「大乗仏教」です。これらの違いは、「自らが自分自身を救う」か「大勢の全ての人を救う」の根本思想にあります。「上座部仏教」は別名「小乗仏教」とも呼ばれており、小さな人々しか乗ることが出来ないという意味を含むこともあるのです。しかしこれは蔑称ですので、「上座部仏教」が正しい呼び方となります。出家を重んじており、修行を積むことで悟りを開くことを目的とする仏教です。
「大乗仏教」は、利他の行いによって全ての人々を救うことが目的です。誰もが釈迦と同じように、悟りを開くことが出来ると考えており、その方法は多種多様とされています。伝承のルートにも違いがあり、「上座部仏教」はスリランカを経由して東アジア諸国に行き渡りましたが、「大乗仏教」は中央アジアからシルクロード経由で中国や朝鮮、そして日本に伝わりました。そのため、信仰の対象はその地域で信仰されていた神と混ざり合い、さまざまな形をとります。釈迦だけではなく如来、菩薩、明王などの数多くの信仰対象が存在するのはそのためです。このようなはっきりとした形をとったのは、おおよそ1世紀頃と言われています。さらに2世紀から3世紀に、これら「大乗仏教」の教えを体系化しまとめた人物が龍樹と呼ばれる僧侶です。龍樹はさらにこの考えを深め、仏教に「空」の思想をもたらしました。そして4世紀頃には、瞑想を行うことで心の本質をとらえるといった考えが生まれたのです。